「ひょっとこ」(芥川龍之介)感想

芥川さんの初期作品をまとめた短編集を持っているのですが、「ひょっとこ」を読んだのはこれが初めてでした。余談ですがこの短編集をひらくとおじいちゃんの本棚のにおいがします。

 

おじいちゃんおばあちゃんの家に来た、みたいな、そういうにおい。きっと前の持ち主のかたのにおいなんじゃないかなあと思いながら読んでました。

 

「ひょっとこ」とは、花見の船でひょっとこをかぶって踊っていた平吉が突如倒れて亡くなってしまう話。この平吉という男、素面(シラフ)のときと酒が入ってないときでは人格が変わる、現代でもごくありふれている性格。この作品ではそんな「二面性」に着目して書かれています。ひょっとこはその二面性を二面性たらしめる一種の境界線として描かれています。

素面の平吉と酔いの回った平吉、どちらが本当の平吉か……というのが主題ですが、結局、真相は当人が死亡したため闇の中に。あれ、なんかこういう作品多くないか、芥川さん。

感想といたしましては……これはすっごく個人的な意見ですが……私が、どうしてもお酒が苦手なので、平吉には共感や同情と言った〝寄り添う気持ち〟が出てきませんでした。うう、苦手なんですよ。

しかし酒の有無はさておき、人間って性格(人格)に二面、あるいは多面ある人も珍しくないんでは、と思いました。とくに今はネットがあるし、オンラインとオフラインでは性格が違う人も数多いらっしゃると思うのです。

たぶん昔っからそうなんでしょうね、人間って。それが良いか悪いかは、本人次第なんですが。

 

あと文中に「札幌ビール」とか出てきて、あー、日本だあ、とノスタルジックな気分なったり、急に出てきた横文字に笑っちゃったり(もう私のある種のフェチなんじゃないかとさえ思い始めた)、そういった言葉のつらなりも楽しめました。

当然ですが、芥川さんが生きていた時代、その当時の生活風景をとうぜんながら「レトロ」なんて言葉では描写なんてしないんですね。そんなあたりまえのことに気付きました。

終わります。