「秋/芥川龍之介」感想

 初めて知った作品。

姉信子と妹照子の姉妹が、俊吉というひとりの男性をめぐって人生を決める話。

 

恋愛物といえば恋愛物なんだけど、それよりかは、だれの選択が正しかったんだろう、この選択でよかったんだろうかと考えさせられた、このあたり感覚としては羅生門に近い気がする。

 

どんな話かというと、

俊吉は姉信子の同窓で、このふたりは相思相愛の仲なんだけれど、照子から俊吉へのラブレターを信子が発見したことをきっかけに信子は別の人と結婚し、やがて照子が俊吉と結ばれた。

つまり信子が身を引いたかたちになるんだけれど、そのことを理解している照子は(信子がかねてより俊吉を好きなことは照子も知っていた周知の事実)、信子への罪の意識を抱きながら新婚生活を送り始める。そこへ信子が夫の用事で里帰りしたついでに照子と俊吉夫妻の住まいを訪れる……という流れ。

 

だれがだれと結ばれるかははっきり見えているし、そこから違う関係へと発展することはない。なので別段そういうことは期待しなかった。〝そういう話〟じゃないし、〝そう〟もならなかった。

 

この話での問題は〝信子が犠牲的に縁談を結んだ〟ということを信子と照子が等しく共有してしまっていること。

さらに、信子がちょっと恩着せがましいし、照子が悲観的すぎるということだ。

ここらへんに、良い意味でモヤモヤさせられた。

 

俊吉という男性を水面下で譲り譲られたにもかかわらず、「あなた今幸せでしょ?」と互いに口にしてしまったのだ、この姉妹は。

 

信子は別の男性と結婚生活を送っている。

照子は信子に譲られたことへの申し訳がたたない。

 

お互い最上の理想を手にしたわけではない。が、まあまあ満たされつつある生活を送っている。だけどこの姉妹関に互いの幸せを確認しあってよいはずもなかろうに。

いや、まあ、でも口を滑らせることはだれにだってあることなので、そこらへんは仕方ない。

ところが信子が「あなたに俊吉さんを譲ったんだから幸せなわけないでしょ」という気持ちを顔に出してしまったものから、照子も言ってはいけなかったことだとようやく気付き、とうとう泣き出してしまう。

 

そんな無駄な涙を流すくらいなら譲らなければよかったんじゃないの。そう思わずにはいられない。

そして譲ったのなら以後は毅然とした態度を貫くべきで、「あなたにしてあげたのよ」なんて気持ちは絶対表に出しちゃいけない。

信子はそれができていなかった。それをできていなかった信子に、腹立たしくなった。これがモヤモヤの正体である。

 

照子も照子で、「うん、私幸せよ」くらい言い切ってほしかった。嫉妬を抱くくらいなら、そのくらい言って許される。なんで鶏にまで自分と同じ罪の意識を押し付けてるんだ。この話の大問題はここである。鶏は無関係だろう。とばっちりだ。

開き直ってくれれば清々しかったのに。

そうさせないのが芥川さんなのか。

 

まとめると、人間くささ、醜さが押し出された作品だった。

ふたりとも幸せになってほしいんだけれど、無関係の鶏にまで背負わせてるあたり、この人たちはこのまま不幸になってしまえと思ってしまう。自己を犠牲にするなら犠牲にするでいいけれど、「してあげた」意識は押し付けちゃだめなのよ。だめというか、それは「あなたのせいで」に繋がってしまうから、好きじゃない。

まあ、俊吉さんがよほど魅力的な男性だったんだろう……。